伝蔵等秘密の内に島を去り、マン、船長に暇を乞う

こうした頃、、ノースアメリカのバーサメーンから※1大型船が港に来泊した。
この船は中国の上海(センバイ)に行くため、船員を雇い入れようとしていると伝え聞き、船長フィツモーア(フイツモーワ)はアラバマ(アレバマ)の人であり、万次郎はかつてその名を知っていたので訪ねていって会うことが出来た。
「私達はいまここから、日本に帰りたいと思う。もし、日本海まで私達を雇ってくれたならば、これに勝る幸せはない。」
と切に頼むと、、船長は、
「中国に着いてから、帰りの船員を雇うのは簡単だが、日本から中国までの船員がいないのは心配である。」
と答えた。

万次郎はさらに、
「傳蔵、五右衛門兄弟は船上で熟練していないので、船員として使うのは難しい。私は彼ら二名の役を兼務するので、彼ら二人を私のために琉球まで送って頂ければ、私一人が中国に行く。しかし、私の賃金は一銭も必要ないので、ぜひ乗船を許して頂きたい、これが私からのお礼である。」
と重ねて頼み、ようやく許諾を得たのであった。

※1サラボイド号
さて、傳蔵、五右衛門はかつて帰国の願いが叶わなかったので、今回も必ず帰るあてはないと、土地の人には帰郷を隠した。
ただ、中国行きの船の船員に雇われたので、しばらくの間いなくなるだけであると告げて、永の別れとなることを知らせなかった。
(五右衛門はワイフをめとったので、人情としてはつらいが、ここを去るためにそうしたとも言う)

万次郎も、金山から直にここに至ったことを、ウィットフィールドに知らせていなかった。
この度、帰国が決まったので、ウィットフィールドに手紙を書いた。

『私は幼いときから養育を賜って、このように成長することが出来ました。その恩の篤いことを忘れられるものではありません。一つも恩に報いることもできないまま、私は、伝蔵等と故国に帰りたいと思います。その罪は大きいのですが、もし、世の中が変わり、運が巡り、再び船長に会えるときが来るかも知れません。私に憐れみを頂き、そして、私を許してください。私が蓄えた金、銀、衣類、機械はそのままここに置かせてもらいます。もし、これが船長の一助となるようであれば、私にはこれに過ぎた幸せはありません。書籍、文房具の類は、私の友達に譲って頂きたいと存じます。』

このように子細を書いて送った。

I never forget your benevolence to bring me up from a small boy to manhood. I have done nothing for your kindness till now. Now I am going to return with Denzo and Goemon to native country. My wrong doing is not to be excused but I believe good will come out of this changing world, and that we will meet again. The gold and silver I left and also my clothing please use for useful purposes. My books and stationery please divide among my friends.
John Mung
※英文はマンが船長に送った内容
左の日本語は漂巽紀畧の文の口語訳

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