マン、シチンボール、レイローを乗り継ぎ、キャリフォネ金山に向かう

合衆国の中に、カリフォルニア(キャリフォネ)という州がある。この地に大金鉱がある。
ここはサクラメント(セングリマン)の地内であり、最近になって掘られ始めた。
しかし、各地に噂が広まり、誰でも掘ることが出来るいうことであった。

万次郎は、
「ここに行って採掘夫となれば、必ず大きな財産を得て、それ以後、働かなくてもいいほどです。」
とウィットフィールドに語って、カリフォルニアに行くために別れを乞うた。

旧知のテリー(テン)という人と一緒に船便に乗り、十月にフェアへーブンを出港した。
船の長さは三十間、その名をシテギリチという。
すでに出港して南東から南西に転じて、ケープホーンをこえ、また、真北に船は走った。
三年庚戌の年四月、サウスアメリカ(シヲウスメリケ)チリの中のバルパライソ(ワペレーショ)と言うところに着いた。ここは金、銀、銅、鉄を産し、作物も乏しくない。土人の体格は優れている。港は人も家も商店も旅館も櫛の歯のようにすこぶる密集している。

八日にここを出発し、舵を北北西から北西にとり、ノースアメリカの西沖に着いた。五月下旬、カリフォルニアに到着した。

ここは太平洋に臨む大きな湾であり、貿易船、商船は皆ここに停泊する重要な地である。
街は港の奥にあり、非常に繁盛しており、三千戸に店が並びぎっしり並んでいる。
上陸し宿に三日逗留した。
ここでスチームボート(シチンボール)という変わった船に乗った。
シチンボールは長さが四十余間で、帆風を用いることがなく、ただ中央に巨大な湯釜をもうけ、船の内外に付いた歯車を蒸気で回す。その速いことはたとえようがない。河を百十里ほど遡り、サクラメントに着いた。

上陸して汽車(レイロー)という変わった車が、ここをたくさん行き来するのを見た。
レイローは三間四面の鉄箱に炭火を入れ、この蒸気を釜の中に充満させ、これを小さな鉄パイプに通すように作ったものである。これはシチンボールのようなもので、鉄車の進む様子はシチンボールと変わったところがない。

別に鉄の箱を二十三、四個つないで、その全てがレイローにしたがい進む。荷物は上に載せ、その下に居住の箱があり、左右に窓を三つ開け、ガラスを張っている
この窓から外を見ると、全てのものは横に流れるようで、長く見ることは出来ないという。その速いことは今言ったとおりである。
まさしく、天下一の珍しいものと言える。

ここを過ぎてしまうと山のない土地が続く。数百里の遠い道であるといっても、全て鉄の板を敷いて走行できるようになっている。

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