土佐藩取締記録
漂客談奇 嘉永五年 吉田文次筆記

漂客談奇 序

上着が短く、ズボンをはき、ベルトを締め、さらに外套を着て、頭に笠をかぶり、革靴を履くのは西洋人である
漂流者たちがアメリカから帰るという噂が伝わり、彼らを見物する者が多い
私は病気で彼らを見ることは出来なかったが、吉田子永がその様子を写生してきたのを見ると、彼らの衣服はおおよそ西洋人のようであった
地球の上でヨーロッパとアメリカとは東西に遠く離れているが、風俗はほぼ同じである。アメリカの地にはヨーロッパ人が割拠しているのである。
子永は長い時間を費やし、漂流のことを聞き取り、筆記し、小冊子を作った。その内容は明白であり、簡単に一読できる。
かつて、大南海の中に磁石があって船を暗礁させ、あるいは船が近づけば鉄類は全て抜け落ち、たちまち粉みじんになると聞いたことがあったが、書中にまたこれを書いている。
今、広く航海により全地球を巡らなかった所はなく、南極の茫洋としたはかることが出来ないところを漂い、日本に帰ってきたのである

漂流者はメリケン言葉をしゃべり、またその文字を習ったのである。この書によって海外事情を知ることに不足はない。
吉田東洋秋

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